「税理士事務所の廃業が業種別で1位」というニュースを、ご自身の事務所に重ねて読んでしまった先生もいらっしゃるかもしれません。

数字は確かに動いていますが、それは「先生個人への警告」ではなく、業界全体が同じ局面に入っている、ということでもあります。

この記事では、税理士の廃業が増加している背景と、その地図のなかでいま自分がどこに立っているのかを、数字を一緒に確認しながら整理していきます。

「業種別1位」が意味すること

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帝国データバンクの調査によると、2024年の税理士業界の廃業率は5.61%で、業種別で1位となりました(出典: 帝国データバンク/中小企業庁『中小企業白書2024』)。

「1位」と聞くと、心がざわつく言葉です。けれど、この数字をどう読むかで、その後の景色はずいぶん変わります。

業種別1位というのは、「税理士業界がいちばん危ない」という意味ではありません。正確には、ほかの業種と比べたときに、いま廃業に至るケースが目立ちやすい局面に入っている、ということです。

たとえば飲食業や小売業は、景気や消費動向で廃業件数が大きく動きます。一方、税理士業界の廃業率が押し上げられている主な背景は、景気ではなく「人」です。経営者の年齢、後継者の有無、そして1人で長く回してきた事務所が次の世代へつながりにくい、という構造的な事情が重なっています。

そう考えると、「業種別1位」という見出しは、業界の景気が悪化している証拠というより、世代交代の波がいま強く押し寄せているサインと読むほうが、実態に近いかもしれません。

つまり、先生個人が「廃業の予備軍」とラベルを貼られているわけではなく、業界全体が同じ局面の入口に立っている、と言い換えることができます。

30件→81件、170%増を分解する

数字を一段、近づけて見てみます。

中小企業庁・帝国データバンクの集計では、税理士事務所の廃業件数は2022年の30件から、2023年には81件まで増えました。1年で約170%の増加です(出典: 中小企業庁/帝国データバンク)。

廃業件数 廃業率 業種別順位
2022 30件
2023 81件 上昇
2024 5.61% 業種別1位

※ 2024年の廃業件数の確定値は本記事執筆時点で確認できないため、件数は伏せています。

170%という数字を見ると、「業界の足元が崩れているのでは」と感じてしまうかもしれません。ここで一度、深呼吸して数字の中身を見てみます。

ひとつ目に大事なのは、母数の小ささです。税理士事務所全体に対して30件・81件という件数は、割合としてはまだ小さいレンジにあります。少ない数字が増えると、増加率は跳ね上がって見えます。30が60になれば100%増、30が81になれば170%増。直感的には大きな数字ですが、母数を踏まえると「急に半数が消えた」という話ではありません。

ふたつ目は、傾向としての確かさです。母数が小さくても、2年で170%増という伸び方は、誤差や景気の振れだけでは説明しづらい水準です。背景に構造的な何かがある、と読むのが自然です。

みっつ目は、これからどう動くかです。経営者の高齢化と後継者不足は短期で解消する論点ではないため、件数自体はしばらく増加基調が続く、と見ておくほうが現実的です。一方で「税理士業界そのものが縮む」のとはイコールではありません。事務所を畳む先生がいる一方で、引き受け手として伸びる事務所も同時に存在しています。

数字は「業界全体が静かに大きな世代交代に入っている」ことを示しています。先生ご自身がいまどう動くか、という話はその次の段階で、まだ少し先に置いてかまわないテーマです。

なお、なぜいま「高齢化」がここまで前面に出てきているのかは、別の記事で平均年齢のデータとあわせて整理しています。気になる方は税理士の高齢化、『本当にうちだけ?』最新調査で見る平均年齢と3つの選択肢もあわせてご覧ください。

なぜこの数字になったのか、3つの構造要因

廃業件数の伸びを生んでいる背景は、ひとつではありません。複数の要因が同時に押し寄せて、結果として数字に表れています。ここでは大きく3つに整理します。

構造要因 主な影響 観察される現象
高齢化 引退時期の集中 70代経営者の廃業選択
後継者不足 承継先の不在 事務所単位での廃業
インボイス+顧問料低下 収益圧迫 廃業判断の前倒し

ひとつ目は、経営者の高齢化です。

帝国データバンクの2024年調査では、日本の経営者の平均年齢は71.3歳とされています(出典: 帝国データバンク『全国「社長年齢」分析調査 2024年』)。税理士業界に絞ると、日本税理士会連合会の第7回税理士実態調査(令和6年実施・2025年公表)で、60歳以上の税理士が全体の半数を超えている(約53%)ことが報告されています。

つまり、業界の半数以上が「いつ引退を考えてもおかしくない年齢」に入っており、その層が同じ時期に判断を迫られています。集団としての引退時期が重なれば、1年あたりの廃業件数は自然と押し上げられます。

2つ目は、後継者不足です。

引退を考えたとき、事務所をそのまま渡せるお子さんやお弟子さんが事務所内にいる先生は、年々少なくなっています。家族のキャリア観の変化、若手税理士の独立志向、税理士試験合格者の母数など、いくつかの要因が絡んでいます。

承継候補が見つからないと、選べる道は限られてきます。長く続けてきた事務所を手放す判断として、「閉じる」を選ぶ先生が一定数いらっしゃるのも、自然な流れと言えます。後継者の有無は、廃業統計の手前にある最大の分岐点になっています。

後継者をめぐる選択肢の整理は、税理士の後継者問題、どうする? 4つの選択肢を整理してみたで4つに分けて整理しています。「いま自分の事務所に当てはまるのはどれか」を確かめたい先生は、こちらが参考になるかもしれません。

3つ目は、収益環境の変化です。

インボイス制度への対応負荷、電子帳簿保存法対応、顧問料水準の頭打ちなど、ここ数年で事務所の収益と業務量のバランスが変わってきています。「あと数年がんばれば」と考えていた先生のなかには、業務負荷の重さから、当初の予定より早く廃業を選ぶケースも出てきています。

3つの要因はそれぞれ独立して動いているわけではなく、互いに作用しあっています。高齢化が後継者問題を表面化させ、収益環境の変化がその判断を前倒しさせる、という流れです。「だから先生も急ぐべき」という話ではなく、いま廃業件数が増えているのは、こうした事情の重なりとして起きている、ということです。

あなただけじゃない、という事実

ここまでの数字を眺めてきて、少し気持ちが重くなった先生もいらっしゃるかもしれません。

夜、静かな書斎で「うちの事務所、このままでいいんだろうか」と考える瞬間。同期の引退の話を耳にしたあとで、ふと自分の年齢を意識するとき。検索窓に「税理士 廃業 増加」と打ち込んでしまった、その手。

その感覚は、先生ひとりのものではありません。

廃業件数が30件から81件に増えたという事実は、見方を変えれば、同じ局面で同じことを考えている先生が、全国に多数いらっしゃることの裏返しでもあります。漫然とした不安を抱えながら、毎日の申告業務をこなし、顧問先と向き合っている方が、想像よりずっと多くいらっしゃる、ということです。

「自分だけが取り残されているのではないか」という感覚は、検索結果に並ぶニュースの大きな見出しによって、増幅されがちです。けれど、業界全体が世代交代の入口に立っているいま、同じ問いを抱える先生は決して少数派ではありません。

そう知っておくだけでも、画面の前の温度が少し変わるのではないでしょうか。

ひとりで抱えなくていい論点というのは、案外多いものです。判断はご自身でなさるとしても、考える材料を並べる作業は、ご一緒できます。


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数字の地図のなかで、いま自分はどこに立っているか

ここまで業界全体の数字を見てきました。次は視点を、先生ご自身の事務所に戻します。

数字は地図のようなものです。地図を読めたとしても、「いま自分がその地図のどこに立っているか」がわからないと、次の一歩は決められません。

決断の前段階として、5つの問いを置いてみます。すぐに答えを出す必要はありません。ノートの隅に、思いついたことを書き留めるつもりで、目を通してみてください。

  1. 事務所の主な顧問先の年齢層は、どのあたりに集まっていますか
  2. 5年後の事務所を、どのような姿で思い描いていますか
  3. 後継者候補について、心当たり、または検討状況はありますか
  4. 廃業・承継・継続の3つの選択肢を、それぞれ真剣に並べて考えたことはありますか
  5. いま判断する必要はないとしても、判断するための材料は手元に揃っていますか

ひとつでも「即答できなかった」「考えたことがなかった」と感じた問いがあれば、それが先生にとっての地図の現在地です。

問いに答えられないこと自体は、悪いことでも遅れていることでもありません。多くの先生は、毎日の業務に追われるうちに、こうした問いを置いてきた、と話されます。問いを思い出した時点で、もう次の一歩に近づいています。

たとえば「顧問先の年齢層」は明確だけれど「5年後の事務所像」は曖昧、という方も多いかもしれません。それは「事務所をどうしたいか」よりも先に「自分自身がどうありたいか」を整理するタイミングかもしれない、というサインです。

焦らずに考える、次の一歩

廃業が増えているというニュースを読んだあと、いちばん避けたいのは、勢いで結論を出してしまうことです。

「数字が動いているから、自分も早く動かないと」という判断は、後悔につながりやすい意思決定でもあります。逆に、数字を見なかったことにして毎日に戻るのも、半年後・1年後の自分への先送りになりがちです。

おすすめできるのは、その中間です。今日のうちに決める必要はないけれど、判断材料を少しずつ揃え始めておく、という姿勢です。

具体的には、3つの段階を意識してみてください。

ひとつ目は、現状の棚卸しです。顧問先の数、年齢構成、報酬の傾向、ご自身の働き方の希望年齢。これは1日でできます。

ふたつ目は、選択肢を3つ並べて見ることです。閉じる、承継する、続ける。それぞれを「自分の場合はどう見えるか」だけ、いったん書き出してみてください。

みっつ目は、外の視点を1回だけ入れることです。家族、信頼できる同業、または第三者の伴走者。決断のためではなく、自分の言葉を一度声に出してみるためのものとして役立ちます。

廃業か売却かのあいだで揺れている段階の先生には、廃業か売却か迷う税理士先生へで、どちらを選ぶにせよ確認しておきたい論点を整理しています。「決める」ためではなく「比べる」ための記事として、目を通していただける内容です。

判断は、急がなくて大丈夫です。地図を眺めるところから、ご一緒できます。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 廃業率5.61%は本当に「業種別1位」ですか?

はい。帝国データバンクが集計し、中小企業庁『中小企業白書2024』で取り上げられたデータです。2024年の業種別廃業率において、税理士事務所(税理士業)が5.61%で1位とされています。順位そのものは事実ですが、税理士業界全体の事業基盤が崩れたという意味ではなく、世代交代の波が一気に表面化した結果と読むほうが、データの背景には近いです。

Q2. 廃業件数が増えているのは、税理士業界がもう成り立たないということですか?

いいえ、その読み方は実態とずれています。廃業件数の増加は、経営者の年齢構成と後継者不在という構造要因に大きく引っ張られていて、需要側の縮小によるものとは限りません。実際、引き継ぎ手側として顧問先を受け入れている事務所も同時に存在します。業界全体が縮小しているというより、「誰がどの事務所を続けるか」が組み替わっている時期、と捉えるほうが正確です。

Q3. 自分も廃業を考えるべきタイミングですか?

いますぐ判断する必要はありません。ただ、判断するための材料を少しずつ揃え始めておくと、半年後・1年後にご自身が選びやすくなります。先に整理しておきたいのは「廃業か継続か」の二択ではなく、廃業・承継・継続の3つを並べて見たうえで、それぞれが自分の希望とどう合うか、という観点です。

まとめ

2024年の税理士業界の廃業率5.61%は、業種別で1位となりました。廃業件数も2022年の30件から2023年の81件へ、約170%の増加です。背景にあるのは、経営者の高齢化、後継者不足、収益環境の変化という3つの構造要因です。

この数字は、先生個人への警告ではなく、業界全体が同じ世代交代の局面に入っているサインと読むほうが実態に近いものです。

決断は急がず、まずは5つの問いから、ご自身の現在地を確かめてみてください。


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