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シン・組織論③:未来はここにある。日本の先駆者たちに学ぶ、新しい会社のカタチ

シン・組織論③:未来はここにある。日本の先駆者たちに学ぶ、新しい会社のカタチ

皆さま、こんにちは。エナウトパートナーズの桃井です。
前回は、これからの組織が持つべきDNAとして、「幸せ視点」の経営と、従業員が会社の所有者となる「コーオウンド」という考え方についてお話しさせていただきました。
「社員の幸せが会社の利益につながる…」「従業員がオーナーになる…」
そんな理想論を語られても、にわかには信じがたい。それは結局、絵に描いた餅なのではないか?…そう感じられた方もいらっしゃるかもしれませんね。
ご安心ください。理論だけではありません。この日本にも、そして世界にも、すでに未来の組織のあり方を体現し、私たちに勇気と希望を与えてくれる先駆者たちがいるのです。
今回は、理論から実践へ。新しい時代の海へと漕ぎ出した、挑戦者たちの航海の物語を、一緒に見ていきましょう。

日本の大地に根付く、未来の組織たち

海外の華やかな事例に目を向ける前に、まず、私たちと同じ日本の土壌で、静かに、しかし力強く育ってきた企業の物語をご紹介させてください。なぜなら、その姿は、私たちが本来持っているはずの価値観と、深く響きあうものだからです。
  • 伊那食品工業:「年輪経営」という、急がない強さ 「会社の成長とは、売上や規模の拡大ではない。社員が昨日より今日、今日より明日、幸せになったと実感できることだ」 。 そう語るのは、伊那食品工業の創業者です。彼らが掲げる「年輪経営」は、急成長を追い求めるのではなく、木の年輪のように、ゆっくりと、しかし着実に成長していくことを目指す経営哲学です 。 社員の幸せを何よりも大切にすれば、利益は後からついてくる 。 この思想は、まさに前回お話しした「幸せ視点の経営」に通づるものであり、多くの経営者が忘れかけていた大切なことを思い出させてくれます。
  • 未来工業:「日本一社員が幸せな会社」の、常識破りのルール 「営業ノルマなし」「残業原則禁止」、そして極めつけは「上司へのホウ・レン・ソウ禁止」 。にわかには信じがたいこれらの制度を掲げ、創業以来一度も赤字を出したことがないという驚異的な会社が、未来工業です 。 一見、奇抜に見えるこれらのルールは、管理を手放すことで、社員一人ひとりの「常に考える力」を最大限に引き出すために、徹底的に設計されたものなのです 。社員の自律性を信じ抜くことで、高い生産性と幸福度を両立できることを、彼らは証明してくれています。
  • 日本レーザー:社員が会社を買い取った、復活の物語 従業員承継の、まさに日本の成功事例と言えるのが日本レーザーです。経営不振に陥った子会社を、なんと経営陣と従業員が自ら買い取る(MEBO)という大胆な決断を下し、奇跡のV字回復を遂げました 。 その成功の鍵は、不振の原因を「社員のモチベーションの欠如」と見抜き、従業員が株式を所有することで「自分たちの会社」という当事者意識を育んだことにあります 。
これらの企業の根底に流れているのは、日本の商道徳の原点ともいえる「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の精神ではないでしょうか 。決して目新しいものではなく、私たち日本人が本来大切にしてきた価値観が、新しい時代の組織論と、今まさに共鳴し始めているのです。

光と影:ザッポスの挑戦が教えてくれる、変革のリアル

しかし、この新しい組織への旅路は、常に順風満帆なわけではありません。むしろ、その道中には、いくつもの困難が待ち受けています。
そのことを、私たちに教えてくれるのが、Amazonに買収されたことで有名な靴のEC大手ザッポスの物語です。顧客中心の文化で知られた同社は、ティール組織の具体的なOSとも言える「ホラクラシー」の導入に踏み切りました 。
その挑戦は世界中から注目されましたが、移行は困難を極めます。管理職という「役職」を失った多くのリーダーたちは自らの役割を見失い、その急進的な変化に馴染めなかった社員の
約14%が、会社を去るという大きな痛みを伴いました 。
これは単なる失敗談ではありません。ザッポスの物語は、変革には痛みが伴うこと、そして、形だけのシステムを導入するだけでは不十分で、そこで働く人々のマインドセットの変革がいかに重要かという、貴重な教訓を私たちに与えてくれるのです。

旅の心得:未来の組織づくり、4つの「落とし穴」

ザッポスの事例を紐解くと、新しい組織への移行が失敗に終わる、いくつかの共通した「落とし穴」が見えてきます。これは、これから変革の旅に出ようとする私たちにとって、必ず知っておくべき重要な警告です。
  1. 能力の欠如: 従業員が、上司の監督なしで成果を出すために必要な「セルフマネジメント能力」を十分に持っていないケースです 。
  1. リーダーシップの失敗: リーダー自身が旧来の指示・管理型スタイルから抜け出せず、権限を委譲することを恐れたり、逆にすべてを放任してしまったりするケースです 。
  1. システムの欠陥: 意思決定のルールが曖昧だったり、情報共有の仕組みが不十分だったりすると、組織は混乱に陥ります 。
  1. 文化的な誤解: 最も多いのが、従業員が「自律」を「好き勝手やること」と誤解し、責任を果たさないフリーライダー問題です 。
これらの落とし穴が教えてくれる、一つの重要な真実があります。 それは、自律分散型組織とは「規律がない」自由な組織では決してない、ということです。
むしろ、その逆なのです。「自由」とは、人間の上下関係という構造に代わる、より高度な『規律』と精緻な『システム』、そして何よりも、メンバー一人ひとりの高い『責任感』を要求する、ということ 。この逆説こそが、変革の核心にあるのです。

おわりに:完璧な設計図など、どこにもない

日本の先駆者たちの力強い歩み、そして世界の挑戦者たちが経験した光と影…。理想と現実のギャップに、少し尻込みしてしまうかもしれませんね。
ですが、どうか忘れないでください。今、成功している企業も、最初から完璧な設計図を持っていたわけではありません。彼らもまた、自らのDNAを信じ、対話を重ね、数え切れないほどの試行錯誤の末に、今の姿を創り上げてきたのです。
大切なのは、完成されたモデルをただ模倣することではありません。あなたの組織が持つ独自のDNAと向き合い、対話を通じて、自分たちの手で、自分たちだけの未来を創り上げていく、そのプロセスそのものなのです。
さあ、いよいよ次回は最終章です。 この壮大で、しかし希望に満ちた旅路へ、あなたの組織が踏み出すための、具体的な最初の一歩についてお話しします。