税理士60代・一人事務所の将来|3つの道と今できること
税理士60代・一人事務所の将来|3つの道と今できること

毎日の業務に追われながらも、ふとした瞬間に「この事務所、あと何年続けられるだろう」と考えることはありませんか。体力の変化を感じ始めたり、顧問先から「先生、いつまでやるんですか?」と聞かれたり、同期の引退の話を聞いたり。特に一人事務所なら、その重みは大きいと思います。
60代・一人事務所という立場で、将来について考えるのは、決して弱さではなく、責任感の表れです。この記事では、同じ立場の先生たちが感じる不安の正体を整理し、実際に選べる「3つの道」を比較形式でお伝えします。今すぐ何かを決める必要はありませんが、知っておくだけで、心の持ち方は変わります。
「このまま続けられるのか」——60代・一人事務所の先生が抱える不安
同じ悩みを持つ先生は、実は多い
あなたが感じている不安は、決して特殊なものではありません。
日本税理士会連合会の統計によると、税理士の平均年齢は60歳を超えており、税理士全体の約50%が60歳以上です※。つまり、あなたと同じくらいの年代で、同じような立場で経営している先生は、想像以上に多いということです。
にもかかわらず、一人事務所の経営者の多くは、この不安を誰にも相談できていません。「廃業を考えている」「事業承継を検討している」といった話は、同期の先生たちとも話しにくいものです。周りがどうしているのか見えないから、焦りが生まれます。そして、その焦りが、さらに不安を大きくしてしまう——そういう構造にいることをご存知でしょうか。
不安が生まれる「きっかけ」
不安は、一夜にして生まれるものではありません。いくつかのきっかけが重なることで、「そろそろ考えないといけないな」という気持ちが膨らんでいきます。
体力・健康面の変化。数年前と比べて、体の疲れが残るようになった。朝、起きるのが少し辛くなった。顧問先を訪問するのが、以前ほど苦でなくはなくなった。こうした変化は、確実にあります。
顧問先からの問いかけ。「先生、今後はどうされるんですか?」といった質問が増えてきた。顧問先も、先生の将来を気にしているのです。これは顧問先との信頼関係の表れですが、同時に「自分の事務所の継続性について、答えを持たなければいけない」というプレッシャーを生みます。
同期の引退・廃業の話。「〇〇さん、事務所閉じたんだって」。こうした情報が耳に入ると、他人事ではなくなります。
IT化・制度変更への対応負担。電子帳簿保存法、インボイス制度、DX化への対応。制度は次々と変わり、対応するための時間と気力が必要です。一人事務所なら、その負担はすべて自分にのしかかります。
これらのきっかけが重なるとき、「このまま続けられるのか」という不安が、現実味を帯び始めるのです。
その不安の正体——なぜ60代で「将来」が気になるのか
「事務所」と「自分の人生」が一体化している問題
一人事務所の経営者にとって、「事務所」と「自分の人生」は、ほぼ一体です。
事務所が軌道に乗っていれば、自分の人生も充実していると感じます。顧問先から必要とされることが、自分の存在価値を感じさせてくれます。でも、その分、事務所を手放すことを考えると、「自分のアイデンティティの喪失」という大きな心理的負担が生じます。
これは、決して経営判断の問題ではなく、人生の問題です。「事務所をどうするか」という選択は、同時に「自分の人生をどうするか」という選択でもあるからです。
「決めなきゃいけない」というプレッシャー
もう一つの不安の源は、「決めなきゃいけない」というプレッシャーです。
実は、今すぐに何かを決める必要はありません。70代でもまだ現役で活躍している先生も多いですし、事業承継や廃業の準備は、数年かけて進めることができるものもあります。
けれど、「いつか決めなきゃ」という重荷は、意識の片隅にずっと残ります。そして、その不安を解消するための情報がないから、漠然とした霧の中をさまよっているような気になるのです。
情報がないから不安が膨らむ——これが、多くの先生たちが感じている悪循環なのです。
60代・一人事務所の「3つの道」を整理する
では、実際には、どのような選択肢があるのか。整理してみましょう。
道① このまま続ける(継続)
最もシンプルな選択が、事務所をそのまま続けることです。
メリット:自分のペースで、自分のやり方で事務所を運営できます。顧問先との関係も継続でき、これまで築いた信頼を活かし続けることができます。また、経済的にも、事務所の収入を得続けることができます。
デメリット:加齢に伴う体力低下に対応する必要があります。病気や怪我で急に仕事ができなくなった場合、顧問先への対応が難しくなるリスクがあります。最終的に廃業する際には、顧問先に多大な迷惑をかける可能性があります。また、IT化や制度対応を、一人で担い続ける負担も大きくなります。
向いている人:「まだまだ元気で、これからも続けたい」という気持ちが強い人。事務所の規模が小さく、対応する顧問先数が限定的な人。
道② 誰かに引き継ぐ(事業承継・M&A)
二番目の選択肢が、事業を誰かに引き継ぐことです。ここでいう「引き継ぐ」には、同業者への事業売却(M&A(事業の売却・統合))や、親族への承継が含まれます。
メリット:顧問先の関係を継続させることができ、先生が築いた信頼や人脈が無駄にならないという心理的な安心感があります。また、事業に一定の対価を得られる可能性があります。引き継ぎ先によっては、段階的に手を引くことができ、心身への負担を軽くできます。
デメリット:引き継ぎ相手を探すことが、簡単ではありません。相手が見つかっても、事業内容の整理や顧問先との調整に時間と手間がかかります。また、引き継ぎ後の顧問先の対応が希望通りにいくか、という懸念も残ります。手続きや契約交渉は、専門的なサポートが必要になることも多いです。
向いている人:顧問先を守ることを最優先に考える人。事務所を次のステップに繋げたいと考える人。段階的に退職したいと考える人。
道③ たたむ(廃業)
三番目の選択肢が、事務所を廃業することです。
メリット:自分の判断で、事務所の終わりを決めることができます。これまでの経営から解放され、新しいステージへ進むことができます。廃業の準備期間を設けることで、顧問先への迷惑を最小限に抑えることも可能です。
デメリット:顧問先が新しい税理士を探さなければならず、その過程で先生と顧問先の関係が終わります。廃業に際しての手続き(顧問先への通知、税務申告の引き継ぎなど)に手間がかかります。また、廃業後の生活設計や生きがいについて、事前に考えておく必要があります。
向いている人:心身に疲弊を感じており、本気で「一区切りをつけたい」と考える人。廃業後の人生設計が具体的に見えている人。
3つの道の比較表
| 比較軸 | 継続 | 承継・M&A | 廃業 |
|---|---|---|---|
| 顧問先への影響 | 継続対応(ただしリスク増) | 関係継続(別の先生へ) | 関係終了+引き継ぎ負担 |
| 経済的な面 | 収入継続 | 対価を得られる可能性 | 廃業時の手続き費用 |
| 手続きの負担 | 継続的な対応必要 | 中程度(契約・引き継ぎ) | 一時的だが集中度高 |
| 自分の気持ち | 「まだやれる」を優先 | 「後に繋ぐ」の充足感 | 「一区切りをつける」の解放感 |
どの選択肢も、メリットとデメリットがあります。大事なのは、どれが「正解」かではなく、自分の人生設計に合った選択をすることです。
「迷っている今」が、実はいちばん大切な時期
まだ何も決めなくていい。でも「知っておく」ことはできる
ここまで読んで、「決めなきゃ」とプレッシャーを感じる必要はありません。
大事なのは、「決断」と「情報収集」は別のことだということです。今は、情報を集める段階です。3つの道があることを知ったり、それぞれのメリット・デメリットを理解したり、「他の先生たちは、どう考えているのか」といった視点を持つだけでも、漠然とした不安は軽くなります。
情報を増やすことで、心の中の「霧」が晴れていきます。そうすると、何年か先のタイミングで、「では、自分はこの道を選ぼう」という判断が、比較的スムーズにできるようになるのです。
一人で抱え込まないために
今この瞬間、「将来について考える」ことさえ、かなりのエネルギーが必要です。特に一人事務所なら、誰にも頼れず、自分だけで考え続けることは、心身の負担になります。
だからこそ、この段階で、一度誰かに話してみることは、非常に価値があることです。同業者、信頼できる先輩、あるいは専門家に相談してみる。「相談する=売却を決めることではない」ということを、まず安心してください。
相談することで、自分の考えが言語化されます。他の視点から見た意見をもらえます。そして何より、「一人じゃないんだ」という安心感が生まれます。これが、今後の判断を支える大きな力になるのです。
エナウトパートナーズでも、多くの先生たちとこのようなお話をさせていただいています。売却を前提とした営業ではなく、「あなたの事務所と人生の将来について、一緒に考えましょう」というスタンスです。もし、話を聞いてみたいと思われたら、気軽にお声がけください。
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この記事を読んで「何か考えるきっかけにはなったけど、まだ整理できていない」と感じた先生へ。
5つの質問に答えるだけで、今のご自身の気持ちや考えが少し見えてきます。診断や評価ではありません。「今の自分はどう感じているか」を確認するための、小さな振り返りです。
※ 相談や面談ではありません。回答内容が外部に公開されることもありません。ご自身のペースで、気軽にお試しください。
まとめ
60代・一人事務所という立場で、将来について不安を感じるのは、決して特殊なことではありません。むしろ、責任感を持って事業に向き合っているからこそ、その不安が生まれているのです。
重要なのは、その不安を抱え込むのではなく、整理することです。「継続する」「引き継ぐ」「廃業する」——3つの道があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。今この瞬間、どれを選ぶかを決める必要はありません。
ですが、「知る」「整理する」「相談する」という段階を踏むことで、心の重みは確実に軽くなります。そして、その準備期間こそが、最も大切な時間なのです。
※出典:日本税理士会連合会 会員分布統計