税理士の後継者問題、どうする? 4つの選択肢を整理してみた

税理士の後継者問題、どうする? 4つの選択肢を整理してみた

「後継者がいない。でも、どうすればいいのかわからない」
税理士の後継者問題は、すぐに答えが出る問いではありません。子どもは他の仕事に就いている。スタッフは頑張ってくれているが、税理士資格を持っていない。売る決断もできていない。廃業は考えたくない——。そんなふうに、漠然としたまま日常が過ぎていく先生は、決して少なくないと思います。
この記事では、税理士事務所の後継者問題に直面したとき、選べる4つの選択肢を整理しました。「どれが正解か」を決める記事ではありません。「どんな選択肢があるのか」をまず把握して、自分に合うものを探すための地図として使っていただければと思います。

分かれ道・選択肢のイラスト
分かれ道・選択肢のイラスト

「そのうち考えなきゃ」が続いてきた理由

先送りにしてきた先生が悪いわけではありません。日々の申告業務、顧問先への対応、スタッフのマネジメント——目の前のことに追われていれば、数年後・十数年後の話を落ち着いて考える余裕は、なかなか持てないのが実情です。

同業者の廃業や引退の話が増えてきた

最近、同期や知人の廃業・引退の話を聞く機会が増えていませんか。
実際、税理士業界の廃業件数は増加傾向にあります。2022年の30件から、2023年には81件へと約170%増加したというデータもあります(中小企業庁『中小企業白書』)。廃業率も5.61%と業種別で高い水準にあります。
ただし、これは「廃業しか道がなかった」ということではありません。準備が間に合わなかった、選択肢を知らなかった、というケースも多く含まれています。「自分もそうなるのか」ではなく、「選択肢を知っておくこと」が、今からできる最初の一歩です。

「後継者がいない=廃業」ではない

「後継者がいないから、廃業しかない」と思い込んでいる先生が多いのが、現実です。しかし選択肢は4つあります。次の章でそれぞれ整理してみます。

税理士事務所の後継者問題、4つの選択肢

選択肢は大きく分けると以下の4つです。どれが「正しい」かは状況によって異なります。

選択肢① 親族内承継 — 身内に引き継ぐ

概要: 子ども・配偶者・甥姪など、家族・親族に事務所を承継する方法です。
向いている状況:
  • 家族の中に税理士資格を持つ人(または取得予定の人)がいる
  • 「この事務所を家族の名前で続けたい」という思い入れがある
メリット:
  • 信頼関係がある相手に引き継げる安心感
  • 経営方針・顧問先との関係を引き継ぎやすい
デメリット:
  • 後継者が「やりたい」と思っていない場合、無理に引き継がせることになりやすい
  • 後継者の資格取得・経験不足を補う準備期間が必要

選択肢② 従業員承継(所内承継)— 信頼できるスタッフに引き継ぐ

長年働いてきた従業員(特に税理士資格を持つスタッフ)に、事務所の経営を引き継いでもらう方法です。
向いている状況:
  • スタッフの中に税理士資格保有者がいる、または取得見込みがある
  • 「顧問先との関係を知っている人に続けてほしい」という思いがある
メリット:
  • 顧問先・業務フローを熟知している人が引き継ぐため、スムーズな移行が期待できる
  • スタッフにとっても独立の機会になる
デメリット:
  • スタッフ側の意思確認が必要(プレッシャーをかけないよう、慎重なコミュニケーションが求められる)
  • 資格を持つスタッフがいない場合は、外部から採用・育成が必要になる

選択肢③ M&A(第三者承継) — 事務所ごと引き継いでもらう

外部の事業者(他の税理士法人や承継希望者)に、事務所を売却・承継する方法です。近年、士業事務所のM&Aは増加しており、選択肢として現実的になってきました。
向いている状況:
  • 社内・家族に後継者候補がいない
  • 顧問先・スタッフを「誰かに継続して守ってもらいたい」
  • 引退後の資金を確保したい
メリット:
  • 顧問先の継続・スタッフの雇用が守られやすい
  • 廃業よりも多くの対価を得られるケースがある(年間売上の0.8〜0.9倍、または営業利益の2〜5年分が業界一般的な目安とされています)
  • 自分の代で「完結」させる形でなく、事務所の歴史を引き継いでもらえる
デメリット:
  • 相手先の選定・交渉・契約など、プロセスに時間と手間がかかる
  • 希望通りの条件で売れるとは限らない
  • 「売った後、自分の居場所はあるのか」という心理的な難しさを感じる先生も多い

選択肢④ 廃業 — 自分の代で閉じる

後継者を立てず、事務所を解散する方法です。
向いている状況:
  • 売却・承継を望まない、または対象が見つからない
  • 顧問先に時間をかけて丁寧に引き継ぎ先を紹介できる体制がある
  • 事務所の規模が小さく、整理がしやすい
メリット:
  • 自分のペースで終わらせられる
  • 承継先を探す手間や精神的な負荷がかかりにくい
デメリット:
  • スタッフの雇用が終了する
  • 顧問先への対応(引き継ぎ先の紹介)に誠実に取り組む必要がある
  • 廃業を選ぶ場合でも、早めの準備(1〜2年以上前)が顧問先への責任を果たす上で重要です

4つの選択肢、どれが自分に合うか

比較表で整理してみます。
親族内承継従業員承継M&A廃業
後継者候補親族に税理士スタッフに税理士不要不要
顧問先の継続△(紹介次第)
スタッフの雇用
対価の取得少(家族内)少〜中中〜高なし
準備期間長(5〜10年)中(3〜5年)中(1〜3年)短〜中
感情的な難しさ中(親族との関係)中(スタッフへの打診)高(売却への抵抗感)低〜中
※上記は一般的な傾向であり、個別の状況によって異なります。

「どれが正解」ではなく「あなたの事務所に合う選択」を

この表を見て、「自分はどこに当てはまるだろう」と考えてみてください。答えはひとつではありません。
「後継者候補がいない → M&A一択」でもありませんし、「M&Aは抵抗がある → 廃業しかない」でもありません。状況によっては、複数の選択肢を組み合わせたり、順番に検討したりすることも可能です。
大切なのは、「どの選択肢があるかを把握した上で、自分の状況と気持ちを整理すること」です。

📋 比較表を見て、少し気持ちが動いた先生へ
「自分の場合はどれに近いんだろう?」——その問いを、少し深めてみませんか。5つの質問に答えるだけの簡単な振り返りです。

一人で抱え込まなくていい理由

後継者問題は、「税務の専門知識」ではなく「経営の決断」の問題です。そのため、何十年も第一線で仕事をしてきた先生でも、一人で答えを出すのは難しい。
「まだ具体的に動くと決めたわけじゃないけど、誰かと話してみたい」——そんな段階からの相談でも、全然構いません。
むしろ、「売ると決めてから相談に来た」より、「まだ迷っている段階」から一緒に整理した方が、結果的に自分に合った選択に辿り着けることが多いと、私たちは感じています。

まとめ

  • 税理士事務所の後継者問題には、4つの選択肢(親族承継・従業員承継・M&A・廃業)があります
  • 「後継者がいない=廃業」ではありません。状況によって最適な選択は異なります
  • 今すぐ決断する必要はありませんが、選択肢を早めに把握して整理しておくことは、いざというとき大きな差になります

📋 「事務所の将来を考える5つの問い」——1分で振り返ってみませんか?
この記事を読んで「選択肢は分かったけど、自分はどれに近いのか、まだ分からない」と感じた先生へ。
5つの質問に答えるだけで、今のご自身の気持ちや考えが少し見えてきます。診断や評価ではありません。「今の自分はどう感じているか」を確認するための、小さな振り返りです。
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