M&Aの契約が無事に終わって、ひと安心したはずなのに。気づけば現場はどこかバラバラで、職員も顧問先も落ち着かない——そんな夜を過ごしている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。統合がうまく進まないとき、いちばんつらいのは「これは誰に相談すればいいのか」がわからないまま時間だけが過ぎていくことです。

この記事でわかるのは、次の3つです。トラブルの種類ごとに誰へ相談すればよいかの相談先マップ、相談にかかる費用のおおまかな目安、そして費用の心配なく使える無料の公的窓口。

PMI失敗の根本原因については税理士事務所のPMIはなぜ失敗するのか|統合後100日の現実で詳しく整理しています。本記事は、トラブルが起きてしまったあとの「動き方」に絞ってお話しします。

PMI統合で起きやすいトラブル、5つのパターン

統合トラブルを専門家に相談する場面のイラスト

まずお伝えしたいのは、統合後にうまくいかないと感じているのは、けっして先生だけではないということです。M&Aの契約そのものより、その後の統合のほうが難しいと言われています。準備していたはずの計画が、現場に下りた瞬間に思うように動かなくなる。これは多くの事務所が通る道です。

よく見られるトラブルは、おおむね次の5つに整理できます。ひとつ目は、職員の大量退職。ふたつ目は、顧問先の解約。3つ目は、会計ソフトや業務システムの統合がうまくいかないこと。4つ目は、買い手と売り手の代表どうしのガバナンス、つまり方針や決め事をめぐる対立。そして5つ目が、これらが重なって起きる複合型です。

中小企業庁が令和4年3月にまとめた「中小PMIガイドライン」でも、統合作業(PMI)は経営統合・業務統合・意識統合という複数の段階に分けて整理されています。どこかひとつでつまずくと、他の段階にも波及していくとされています。

発生のタイミングにも、ひとつの傾向があります。多くの場合、クロージング(契約完了)後の2〜4ヶ月目に表面化しやすいようです。最初のうちは皆が様子を見ていて、3ヶ月ほど経って現場の不満や戸惑いが一気に噴き出す。今まさにその時期にいる先生は、決して特別な失敗をしているわけではありません。

トラブル別・専門家マップ——誰に相談するか

統合で何より避けたいのは、「誰に頼めばいいかわからない」まま、ひとりで抱え込んで時間が過ぎてしまうことです。トラブルの種類によって、頼るべき相手は違います。ここを取り違えると、せっかく相談しても話がかみ合いません。整理してみましょう。

職員が辞めそう・辞めてしまったとき

人の問題は、まず労務と組織の専門家に相談するのが近道です。就業規則や給与体系の統一、退職手続きといった実務面は実務型の社労士が力になります。一方で、「職員の気持ちが離れている」「チームがまとまらない」といった組織の空気の問題は、組織コンサルタントの領域です。

人が辞めてからでは打てる手が限られます。退職を予防する具体策については、会計事務所のM&Aで半数退職を防ぐ9つの実践策もあわせてご覧ください。

顧問先が解約しそう・解約されたとき

顧問先の離反は、事務所の価値そのものに関わります。ここは士業のM&Aに詳しいアドバイザーに相談するのがよいでしょう。顧問先への説明の仕方、引き継ぎの進め方、料金体系をどう揃えるか。士業特化型のM&Aアドバイザーは、こうした場面の勘どころを持っています。

会計ソフト・システムの統合でつまずいたとき

二つの事務所が別々のソフトを使っていた場合、データの移行や運用の統一は想像以上に手間がかかります。ここは士業向けのIT・DXに明るいコンサルタントの出番です。どのソフトに寄せるか、移行中の二重運用をどう乗り切るか。専門家がいると現場の混乱がだいぶ和らぎます。

代表どうしの対立、何から手をつけるか迷うとき

方針の食い違いや、全体を誰に相談すればいいか見当もつかないとき。そんなときは、まず無料で相談できる公的窓口や税理士会の窓口を入り口にするのが安心です。法的な争いに発展しそうなら弁護士へ。「とりあえず誰かに話を整理してもらいたい」段階なら、後述する公的窓口が役に立ちます。

トラブルの種類 主な相談先 相談で解決できること
職員の退職 実務型の社労士/組織コンサルタント 労務手続きの整理、組織の立て直し
顧問先の解約 士業特化型のM&Aアドバイザー 引き継ぎ・説明の進め方、料金統一
システム統合 士業向けIT・DXコンサルタント ソフト移行、運用ルールの統一
代表間の対立 税理士会窓口/弁護士 役割整理、法的トラブルの予防
何から相談すべきか不明 公的窓口(後述) 状況整理、適切な専門家への橋渡し

費用感の目安——3段階で整理

「相談したいけれど、いくらかかるのか怖い」。その気持ち、よくわかります。専門家に頼むと高額な請求が来るのでは、と身構えてしまいますよね。費用は相談先のタイプによってかなり幅があるので、ここでは大きく3段階に分けて考え方を整理します。

第1段は、無料相談の層です。後ほど紹介する公的窓口や、専門家の初回無料相談がここに入ります。まずは状況を話して、どんな専門家が必要かの見当をつける段階。費用ゼロで始められるので、最初の一歩に向いています。

第2段は、成功報酬型や顧問契約型です。士業特化のM&Aアドバイザーや社労士との継続的なつきあいがこれにあたります。月額の顧問料や、成果に応じた報酬という形が一般的です。具体的な金額は事務所の規模や依頼内容で大きく変わるため、初回相談で必ず確認してください。

第3段は、プロジェクト契約型。システム統合や大がかりな組織再構築など、期間を区切って取り組む案件です。ここはまとまった費用が必要になる傾向があります。

費用の段階 主な相談先のタイプ こんなときに使う
第1段(無料相談層) 公的窓口・専門家の初回相談 まず状況を整理したいとき
第2段(成功報酬・顧問型) M&Aアドバイザー・社労士 継続的に伴走してほしいとき
第3段(プロジェクト契約型) IT・組織コンサルタント 期間を決めて統合に取り組むとき

金額をここで断定することはできません。同じ「システム統合」でも、事務所の規模やソフトの種類で費用は大きく変わるからです。大切なのは、初回の無料相談で「この内容ならいくらくらいか」を遠慮なく聞いてみることです。

無料で使える公的窓口一覧

費用の心配をせずに相談できる窓口が、実は複数あります。「いきなりお金を払って専門家に頼むのは不安」という先生は、まずこちらから始めるのが安心です。

代表的なのが、事業承継・引継ぎ支援センターです。中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営し、全国47都道府県に設置されています。事業承継やM&Aの相談に無料で応じてくれる公的な窓口です。中小PMIガイドラインでも、統合後の困りごとを相談できる先として位置づけられています。

このほか、経営全般の相談に乗ってくれるよろず支援拠点、税理士としての立場で相談できる所属税理士会の窓口、地域の商工会議所も選択肢になります。

窓口の名前 運営している主体 主な相談対象 費用 問い合わせ先の探し方
事業承継・引継ぎ支援センター 中小機構(各都道府県に設置) 事業承継・M&A全般 無料 「事業承継 引継ぎ支援センター + 都道府県名」で検索
よろず支援拠点 中小機構 経営全般の困りごと 無料 「よろず支援拠点 + 都道府県名」で検索
税理士会の相談窓口 各地域の税理士会 税務・実務の相談 無料の場合が多い 所属税理士会のサイトを確認
商工会議所 各地の商工会議所 地域の経営相談 無料の場合が多い 地元の商工会議所に問い合わせ

どの窓口も、まずは電話か窓口で「統合後にこういうことで困っている」と話すところから始められます。いきなり結論を出す必要はありません。

相談前に準備しておくこと

専門家にうまく説明できるか心配、という声をよく耳にします。でも、立て板に水で話す必要はまったくありません。手元に少し材料があれば、相手が状況をつかみやすくなる。その程度に考えてください。

あると役立つものを挙げておきます。

  • M&Aの契約書(条件や引き継ぎの取り決めが書かれています)
  • 職員の人数と、退職の状況がわかるメモ
  • 顧問先の一覧と、解約があったかどうか
  • 統合後のおおまかな財務の数字
  • いま困っていることを、優先順位をつけて書いた簡単なメモ

ぜんぶ揃わなくても大丈夫です。手元にあるものだけ持って相談に行っても、まったく問題ありません。むしろ「何が揃っていないか」を一緒に整理してもらうのも、相談の価値のひとつです。

よくある疑問・不安

最後に、相談を前にした先生からよく寄せられる疑問にお答えします。

Q. トラブルが起きてからでも相談できますか。

はい、できます。むしろ「起きてしまったあとどう収めるか」は、専門家がもっとも力を発揮する場面です。手遅れと決めつけず、まず話してみてください。

Q. 士業に特化した相談窓口はありますか。

あります。士業特化型のM&Aアドバイザーは、税理士事務所ならではの顧問先対応や職員の事情を理解しています。一般的なコンサルとは勘どころが違うので、事務所の事情を細かく話せる相手を選ぶと安心です。

Q. 無料相談ではどこまで対応してもらえますか。

状況の整理と、どんな専門家が必要かの見立てまでは多くの窓口で無料です。そこから先の具体的な実務は有料になることが多いので、初回の相談で「無料の範囲」を確認しておくとよいでしょう。

Q. 社労士と組織コンサルタントは、どう使い分ければよいですか。

就業規則や手続きといった「制度」の話は社労士、職員の気持ちやチームの空気といった「人と組織」の話は組織コンサルタント、と分けて考えると整理しやすくなります。両方にまたがる場合は、まず社労士に相談して必要に応じて紹介してもらう流れもあります。

まとめ

PMIのトラブルは、一人で抱えるには複雑すぎます。だからこそ、専門家を頼るのは弱さではなく、正しい判断です。

お伝えしたことは3つでした。トラブルの種類ごとに相談先は違うこと、費用は無料から段階的に分かれていて初回相談で確認できること、そして費用ゼロで使える公的窓口が全国にあること。

まずは状況を落ち着いて整理したい——そんな先生は、エナウトパートナーズの無料相談で、いまの困りごとを一緒に棚卸しするところから始めてみませんか。

← 記事一覧に戻る