page icon

事業承継の最大の失敗は「ミニ社長」を育ててしまうこと。

事業承継の最大の失敗は「ミニ社長」を育ててしまうこと。

「社長、あなたのようには、とてもなれません」
もし後継者であるご子息や右腕の幹部から、そんな言葉を投げかけられたとしたら、あなたはどのように感じられるでしょうか。一抹の寂しさと、そして「この会社は、今後、一体どうなってしまうのか」という深い焦りを感じてしまうのではないでしょうか。
わかります。一代で会社を築き上げ、幾多の荒波を乗り越えてこられた経営者にとって、会社はまさに命そのもの。その航海の舵取りを、自分と同じようにできる人間がいないことに、不安と焦りを感じるのは、当然のことと存じます。
自分の舵取りの方法を伝えたい。それゆえに、後継者につい同じやり方を求めてしまう。「俺の若い頃はこうだった」「このやり方で成功してきたんだ」と、ご自身の成功体験を伝え、自分と同じように考え、決断できるリーダー、いわば「ミニ社長」を育てようと尽力されてはいませんか?
しかし、ここに、事業承継における最大の落とし穴が潜んでいるとしたらどうでしょうか。

創業者と2代目は、そもそも「OS」が違う

考えてみていただきたいのです。現経営者が事業を興された時代と、今とでは、社会の景色や状況は全く違います。市場のルールも、お客様の価値観も、そして社員の働き方も、めまぐるしく変化していますよね。
まるで、パソコンやスマートフォンのようです。かつては画期的だったOS(オペレーティングシステム)も、時代の変化と共にアップデートしなければ、新しいアプリが動かなくなってしまうのと同じです。組織もまた、その根幹にあるOS、つまり「意志決定の仕組み」を時代に合わせて見直す必要があるのではないでしょうか。
創業社長であるあなた様は、強力なリーダーシップとカリスマ性で組織を牽引する、いわゆる上意下達の色が強い、ピラミッド型の「管理型OS」で、会社を成長させてこられたことでしょう。トップが情報を集め、的確な指示を出すことで、組織という機械は効率的に動いてきました。
しかし、後継者が同じOSを使いこなせるとは限りません。そもそも、現経営者と後継者は、生まれ持った個性も、経験してきた環境も違う、全く別の人間なのですから。

継承すべきは「人」ではなく「仕組み」

では、一体何を承継すればいいのでしょうか。
私は、承継すべきは「特定のリーダーシップ」という個人に依存したものではなく、「誰がリーダーになっても、その人らしく価値を発揮できる“仕組み”」そのものではないかと考えています。
それが、私たちがお伝えしている「自走する組織」、すなわち「進化型OS」を搭載した組織です。
これは、トップからの指示を待つのではなく、メンバー一人ひとりが組織の目的を自分事として捉え、主体的に考え、行動する生命体のような組織です。現場の最前線にいるメンバーが、変化の兆しをいち早く察知し、スピーディーに最適な判断を下していく。まるで、人体の細胞一つひとつが自律的に機能しながら、全体として生命を維持しているようなものです。
この「進化型OS」さえあれば、後継者は現経営者の真似をする必要はありません。創業者であるあなたが、力強く全体を引っ張る「統制型リーダー」だったのなら、後継者は、メンバーの想いに耳を傾け、彼らの成長を支援する「自走型リーダー」として、全く違う色のリーダーシップを発揮すればよいのです。
むしろ、その違いこそが、組織に新たな風を吹き込み、次の時代を生き抜くための進化を促す力となるはずです!

創業者にしかできない、最後の偉大な仕事

事業承継は、単なる株式や役職の引き継ぎではありません。それは、創業者であるあなた様が、命をかけて育んできた「組織という生命体」を、未来へと託す神聖な旅路です。
その後継者が、自分らしさを殺して「ミニ社長」という窮屈な仮面を被るのか。それとも、自分らしいリーダーシップを存分に発揮し、仲間と共に新たな航海へと漕ぎ出していくのか。その鍵を握っているのは、他ならぬあなた様ご自身なのです。
後継者を、ご自身のコピーにしようとすることから手放すこと。そして、彼らが自分らしく輝ける「自走する組織」という最高の舞台を用意すること。それこそが、創業者であるあなた様にしかできない、最後の、そして最も偉大な仕事なのではないでしょうか。
あなた様が耕した豊かな土壌の上で、後継者が、あなた様とは違う色の、しかし、同じくらい美しい花を咲かせる。それを見守る喜びを、ぜひ味わっていただきたいと、心から願っています。