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事業承継とは「OSのアップデート」である。次世代に本当に引き継ぐべきもの。

事業承継とは「OSのアップデート」である。次世代に本当に引き継ぐべきもの。

経営者の皆様、こんにちは。エナウトパートナーズの桃井です。
「事業承継」
この言葉を聞いて、皆様はどのような光景を思い浮かべますか?
長年、一身で会社を牽引してこられた、創業経営者であるあなたの「魂」や「背中」を、信頼する一人の後継者に託していく…そんな、少し孤独で、重い責任を伴う旅路を想像されるのではないでしょうか。
近年ではM&Aという選択肢も一般的になりましたが、それでも「大切に育ててきた会社が、全く違う文化の手に渡ってしまうのでは…」「従業員たちは本当に幸せになれるのだろうか…」といったご不安は、尽きることがないと存じます。
「信頼できる右腕がいない」 「息子に継がせたいが、自分ほどの器量があるだろうか」 「M&Aで会社を売却した後、従業員たちの雇用は守られるのだろうか…」
こうしたお悩み、経営者の方々と日々お話しさせていただく中で、痛いほど伝わってまいります。本当に、大変なご決断ですよね。
しかし、その悩みの根源は、本当に「誰に引き継ぐか」という一点だけにあるのでしょうか?もしかしたら、私たちはもっと根本的で、大切なことを見過ごしてしまっているのかもしれない…と感じることはありませんか?

事業承継は「人の交代」ではなく「仕組みの刷新」

もし、事業承継が、単なる「社長の椅子」の引き渡しではなく、会社の心臓部ともいえる「OSをアップデートする」またとない機会だとしたら、どうでしょう。
OSとはオペレーションソフトのことです。そう、皆様がお使いのパソコンやスマートフォンのOSと同じです。組織にも、その組織を動かすための根本的な仕組みや、目には見えないルール、文化といった「組織OS」が存在しています。
そして、多くの事業承継が困難を極める原因は、このOSが、創業者であるあなた個人の頭の中や、特定のベテラン社員の経験の中にしか存在しない「属人化された状態」にあるからなのです。
「この案件は、A部長に聞かないと誰もわからない」 「社長の“鶴の一声”がなければ、何も決まらない」
こうした光景は、あなたの会社でも日常茶飯事ではありませんか?
それは、会社がこれまで力強く成長してこられた証でもあります。しかし、その「あなただからこそ出来た判断の数々」や「暗黙のルール」に依存した旧式のOSのままでは、次世代のリーダーはあまりにも重い荷物を背負うことになってしまいます。
事業承継とは、この属人化されたOSを、誰もが理解し、活用できる新しいOSへとアップデートする絶好の機会なのです。

新しいリーダーを「孤独な王様」にしないために

では、なぜOSのアップデートが必要なのでしょうか。それは、次世代のリーダーを「孤独な王様」にしないために他なりません。
想像してみてください。ある日突然、あなたは巨大な船の船長室に一人で立たされています。目の前には無数の計器とボタン。しかし、そのどれが何を意味するのか、ほとんどわかりません。先代の船長が描いた操舵マニュアルと航海図は、彼の頭の中にしか存在しなかったのですから…。
これでは不安で当然ではないでしょうか。
後継者も同じです。先代であるあなたの頭の中にあった「経営の羅針盤」が見えなければ、暗闇の中を手探りで進むしかありません。これこそが、多くの後継者がプレッシャーに押しつぶされ、事業が立ち行かなくなる大きな原因なのです。
この負の連鎖を断ち切る鍵、それが「情報の透明化」です。
財務状況、重要顧客とのやりとりの歴史、過去の大きな失敗とその学び…こうした経営の根幹に関わる情報が、オープンになっていること。それが、後継者や残された従業員たちが、安心して舵取りできる「心理的安全性」の高いチームを作るための、何よりも大切な第一歩となります。

本当に引き継ぐべきは「仕組み」という名の資産

「情報の透明化」と並行して進めるべきOSのアップデート。それは、「適切に属人性を排した仕組みづくり」です。
これは、決して難しい話ではありません。
まずは、今あなたの会社にある業務を一つひとつ丁寧に洗い出し、「何のために、その仕事をしているのか?」という目的を、チーム全員で確認し合うことから始めます。驚くことに、長年続けてきた業務でも、その目的を問われると答えに窮するケースは少なくないのです。
そして、その目的に沿ってチームを再編成し、それぞれの役割を明確にしていく。これまであなたや特定の個人が担ってきた意思決定も、「こういう場合は、誰が、何を基準に、どのように決めるのか」というプロセスをルール化するのです。
誰か一人の天才的なひらめきに頼るのではなく、チームとして機能する仕組みを構築していく。
一見、遠回りに思えるかもしれません。しかし、この「誰がやってもある程度うまくいく仕組み」こそが、あなたが御子息や後継者に残せる、何物にも代えがたい「無形資産」となるのです。

新しい旅路のはじまりに

事業承継とは、一つの時代の終わりではありません。それは、新しい組織が生まれるための、希望に満ちた始まりの時です。
あなたが次世代に本当に引き継ぐべきもの。 それは、社長の椅子や株式だけではないはずです。ましてや、あなた個人のカリスマ性という「仮面」でもありません。
本当に引き継ぐべきもの…。 それは、あなたがいなくても、社員一人ひとりが自律的に考え、協力し合い、会社を未来へと進化させ続けることができる「生命体」のような組織の仕組み。すなわち「新しいOS」そのものであると、私は思います。
このOSアップデートの旅路は、決して平坦なものではないでしょう。しかし、あなたの会社の輝かしい未来と、愛する従業員たちの幸せな未来のために、今、ご自身の「当たり前」という名のOSを、見直す旅に出てみませんか?
その尊い一歩を、私たちは心から応援しています。