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シン・組織論②:会社のDNAは、どこにありますか? 利益の先にある「幸せ」と「オーナーシップ」の話

シン・組織論②:会社のDNAは、どこにありますか? 利益の先にある「幸せ」と「オーナーシップ」の話

皆さま、こんにちは。エナウトパートナーズの桃井です。
前回の記事では、これからの組織は硬直した「機械」ではなく、しなやかに変化し続ける「生命体」へと進化していく必要がある、というお話をさせていただきました。
「なるほど、組織を生命体として捉えるのか…」と感じていただけたとしたら、とても嬉しく思います。
では、その生命体の設計図であり、その組織らしさを決定づける「DNA」とは、一体何なのでしょうか?
最近、社員のモチベーションが上がらない…。手塩にかけて育てたはずの若手が、静かに会社を去っていく…。そんな現実に心を痛めている経営者の方も、少なくないのではないでしょうか。
もしかしたら私たちは、日々の忙しさの中で、組織の根幹をなすDNA、つまり「人の心」が輝くための仕組みや文化を見失っていたのかもしれません。
今回は、そのDNAを健全に保ち、未来へと進化させていくための、二つの重要な要素についてお話ししたいと思います。

新しい時代の羅針盤:「お金」から「人の幸せ」へ

「会社の目的は、利益を最大化することだ」
これは、20世紀の経営における、揺るぎない常識でした。もちろん、利益は事業を継続していく上で不可欠な血液です。しかし、それは本当に、私たちの働く「目的」そのものなのでしょうか?
それとも、社員一丸となって素晴らしい仕事をし、お客様に心から喜んでいただいた、その尊い活動の「結果」として与えられるものなのでしょうか?
今、経営の価値基準そのものに、大きな地殻変動が起きています。かつての「お金視点」から、そこで働く一人ひとりの充足感を大切にする「
幸せ視点」への転換です。これは、人を動かす原動力が、地位や報酬といった外的なニンジンから、仕事そのものの楽しさ、成長、そして誰かの役に立っているという貢献感、つまり「内発的動機」へとシフトしていることを意味します。

組織DNAを構成する要素①:「ありのままの自分」でいられる職場(ウェルビーイング)

「幸せ視点の経営」と聞くと、少し漠然として聞こえるかもしれませんね。その核心を、二つのキーワードで解き明かしてみましょう。「ホールネス(全体性)」と「心理的安全性」です。
皆さんの会社では、社員が仕事用の「仮面」を被らずに働けているでしょうか?
ホールネスとは、まさにその「仮面」を外し、「ありのままの自分」でいられる状態を指します。自分の弱さも、失敗も、不完全さも、すべて含めて受け入れられる。そんな職場です。
そして、このホールネスを実現するために不可欠な土壌となるのが、「
心理的安全性」に他なりません。「こんなことを言ったら馬鹿にされるかもしれない」「弱みを見せたら評価が下がるかもしれない」…そんな恐れなく、誰もが安心して本音を語り、挑戦できる環境。それこそが、組織の
DNAに「健全な自己複製と進化」を促す、不可欠な土壌となるのです。
そして、その安全な場を作る上で最も大切なのは、リーダーが自ら範を示し、ご自身の弱さや不完全さを開示することだと言われています。

組織DNAを構成する要素②:「パーパス」という北極星

働く一人ひとりが幸せを感じ、組織が同じ方向へ向かって進んでいく。その二つを結びつける接着剤となるのが、「パーパス(存在目的)」です。
「私たちは、一体、何のために存在するのか?」 「この仕事を通じて、誰を、どのように幸せにしたいのか?」
この根源的な問いへの答えこそが、組織のDNAに刻まれるべき最も重要な情報であり、羅針盤のない航海に出る船にとっての「北極星」となります。明確なパーパスが組織の隅々まで共有されていれば、たとえリーダーが細かな指示を出さなくても、メンバー一人ひとりがその星を目指して自律的に考え、行動することができるのです。

DNAを未来へつなぐ器:コーオウンド(共同所有)という新しい形

さて、ここまで「人の心」や「企業文化」といった、組織のDNAを構成する内面的な要素についてお話してきました。しかし、生命体がDNAの器である「肉体」を必要とするように、組織にもまた、その理念を体現するための「器=仕組み」が不可欠です。
そこで今、注目されているのが「コーオウンド経営(従業員所有型経営)」という、まったく新しい所有の形です。
もし、社員が単なる「従業員」ではなく、会社の「所有者」になったとしたら、一体何が起こるでしょうか…?
このモデルの要諦は、心理的なオーナーシップだけでなく、「経済的なオーナーシップ」を従業員に提供することにあります。具体的には、「①オーナーシップ・カルチャー(当事者意識を持つ文化)」「②情報共有(経営情報の透明化)」「③プロフィット・シェア(利益の分配)」という三位一体の仕組みによって、従業員の心に「これは“私たちの会社”なんだ」という強力な火を灯すのです。

事業承継の切り札になるか?従業員承継モデル

このコーオウンドの考え方は、日本の中小企業が直面する、待ったなしの課題「事業承継」に対する、画期的な解決策となり得ます 。
例えば、アメリカのTeamshares社が展開する従業員承継モデルは、今、非常の注目を浴びている新しい事業承継の形です。
  1. 引退するオーナーから、Teamsharesが会社の全株式を買い取ります。
  1. 買い取り後、即座に、全従業員に対して株式の10%を無償で割り当てるのです。従業員の金銭的な負担は一切ありません。
  1. その後、会社の業績が向上するにつれて、従業員の持ち株比率は段階的に増えていきます 。
  1. 最終的に、20年後には従業員が80%を所有し、残りの20%をTeamsharesが永続的に保有することで、会社の安定性を担保するのです 。
この仕組みは、引退するオーナーには理念の継承と正当なリターンを、従業員には雇用の安定と資産形成の機会を、そして地域社会には企業の存続という、まさに「三方よし」を超える価値を提供します 。

おわりに:二つのオーナーシップを両輪に

ここまでお話ししてきた「幸せ視点の経営」と「コーオウンド経営」は、決して別々のものではありません。むしろ、表裏一体、車の両輪のような関係にあります。
働く人の「心理的オーナーシップ」を育むことで、仕事への誇りとやりがいが生まれる。そして、その貢献が「経済的オーナーシップ」を通じて、自分自身の資産形成へと直接的につながる。この二つのエンジンが力強く回り始めた時、組織は本当の意味で「自走」し、持続可能な未来へと向かって進化していくのだと、私は考えています。
あなたの組織のDNAには、どんな情報が書き込まれているでしょうか? そして、それは未来に向けて、どのように進化していくべきでしょうか?
次回は、この新しい時代の航海に挑んだ、日本の先駆者たちの、勇気と試行錯誤の物語をご紹介したいと思います。ぜひ、お楽しみに。